忘れたくないこと

わたしの思い出

一睡もせずに踊りあかしたい夜に

たどり着く先に何もなくたって構わないと思えるほどの若さは失ったと思っていたけれども、わたしは全然変われていない。

 

 

レパルスベイにて昼に見る夢

どんなに飲んでも顔色は変わらないけれども、本当はアルコールなんて一滴も身体に入れたくないと思っている。
どんなにくらくらしていても、鏡に映る自分はいつも青白くって笑ってしまう。

思えば、ずいぶん遠いところに来てしまった。

次の6月で私は23になる。
あと2年の大学院、東京にいる恋人、安いコーヒー。
これが紛れもない私の人生なのだと思うと、すべてが幻みたいに感じられる。


レパルスベイにて昼間見る夢は、人並みに働いて、恋人とまた同じ街でくらし、アンナカリーナが出てくる古い映画を見るような生活。
それもまた幻か。

好きだとか愛しているとか、そういう感情が無ければ私たちは一切苦しみなどしない。三島由紀夫の小説に書いてあったけど。
同い年の友達が子供を産んで結婚したり、大きな会社で働いて「現実を生きている」姿を見ると、私は何て気楽なんだろうと感じる。
私はまだ、好きだとか愛しているとか、そういう感情を割り切るとこができない。恋人と一緒に生きていきたいと、思ってしまう。

月食の夜

玄関のドアを開けたら、満月だった。この角度。わたしは思い出す。

あなたはその夜、階段の踊り場で煙草を吸っていた。地球の影で、月の明かりがぼんやりとした暗がりの中にその火は赤く、ゆらゆらしていた。

どこかへ行くのに階段を降りるあなたに、わたしは話しかけた。
「見て」と。
月食が進む様子。


あなたはこの街を出た。
わたしは、何も変わっていない。
あなたがいなくなって、2回目の春が来る。

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2014年9月のこと

Summertime Sadnessという歌を聴くと,思い出す人がいる.

多分もう二度と会うこともないだろうけど,その人と出会ったことを,わたしはもうずっと誰かに聞いてほしかった.

 

あの時,わたしははたちで,長い長い夏休みをひとり,フランスで過ごした.その人と出会ったのは,パリの安宿の,コインランドリー.パリなんて俗っぽくて,わたしはフィレンツェとかバルセロナの方が好きだけれども,わたしと彼はそこで出会った.

黒くて少しウェーブした髪に,無難なシャツと,きれいな鼻筋.昔好きだった人に,少し似ていた.わたしは,ああ,好きになると,思った.そうしなければいけないと感じて,「日本の方ですか」と声をかけた.彼はわたしにマシーンの使い方を教えてほしいと頼んで,そのあと外国製品特有の毒々しい色をしたお菓子と水を片手に,自分のことを話した.

東京の大きな大学の学生であること.わたしより,4つ年上だということ.イタリアを回って,パリの次はバルセロナに行くこと.そういう他愛ないこと,色々.そして次の夜,わたしがブリュッセルから戻ったら,一緒に夕食を食べに行く約束をした.

ヨーロッパの電車にはよくあることみたいだけれども,タリスは少し遅れて北駅に到着した.それでも彼は,ホステルの前で待っていてくれた.ふたりで少し歩いて,近くのお店に入った.窓際の席,ほおづえをついて視線をメニュー表に向けながら,笑うたびに口角を上げる彼の顔を,わたしは一生,忘れないと思った.彼はいつもコーラにするんだと言って,わたしの頼んだレモネードと一緒に乾杯した(マナー違反らしいけれどね).それからずっとずっと,相変わらずの他愛ない会話をした.外から売り子に一輪のバラを差し出されて,パリだなあと思った.会計の時に「これから俺の部屋に来るようにとは言わないから」と言って笑った彼は,最高に素敵だった.絶対に,忘れない.忘れたくないと,思った.

それからのホステルまでの帰り道は,おびえていた外国の街でもう20時を回っていたというのに全然怖くなかった.そしてそこで,翌朝TJVに乗るために5時に起きて歩いて東駅に向かうという無謀なその人に「どうか,ご無事で」と声をかけて,別れた.彼も,心配した顔をしているねと言って,同じようにわたしの平気を願ってくれた.

それだけ.

 

 

それから2ヶ月くらい,連絡先とか聞いておけばよなったなって,あるいはあのとき眠っていてもよかったなって,ずっと考えていた.テレビに出てくる,どんなにかわいくって裕福な女の子に生まれ変われるとしたって,もう一度自分の人生を生きたいなとか思っていた.

もう2年も前の話で,わたしはまだはたちで,ただいまだに幻みたいな記憶だけが残っている.わたしはもう処女でもないし,今の恋人のことがとても好きだけれども,彼がちゃんと東駅からバルセロナへ,そしてこの国に帰れたのか,それだけはまだ気になっている.

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