忘れたくないこと

わたしの思い出

2014年9月のこと

Summertime Sadnessという歌を聴くと,思い出す人がいる.

多分もう二度と会うこともないだろうけど,その人と出会ったことを,わたしはもうずっと誰かに聞いてほしかった.

 

あの時,わたしははたちで,長い長い夏休みをひとり,フランスで過ごした.その人と出会ったのは,パリの安宿の,コインランドリー.パリなんて俗っぽくて,わたしはフィレンツェとかバルセロナの方が好きだけれども,わたしと彼はそこで出会った.

黒くて少しウェーブした髪に,無難なシャツと,きれいな鼻筋.昔好きだった人に,少し似ていた.わたしは,ああ,好きになると,思った.そうしなければいけないと感じて,「日本の方ですか」と声をかけた.彼は頷くとわたしにマシーンの使い方を教えてほしいと頼んで,そのあと外国製品特有の毒々しい色をしたお菓子と水を片手に,自分のことを話した.

東京の大きな大学の学生であること.わたしより,4つ年上だということ.イタリアを回って,パリの次はバルセロナに行くこと.そういう他愛ないこと,色々.そして次の夜,わたしがブリュッセルから戻ったら,一緒に夕食を食べに行く約束をした.

ヨーロッパの電車にはよくあることみたいだけれども,タリスは少し遅れて北駅に到着した.それでも彼は,ホステルの前で待っていてくれた.ふたりで少し歩いて,近くのお店に入った.窓際の席,ほおづえをついて視線をメニュー表に向けながら,笑うたびに口角を上げる彼の顔を,わたしは一生,忘れないと思った.彼はいつもコーラにするんだと言って,わたしの頼んだレモネードと一緒に乾杯した(マナー違反らしいけれどね).それからずっとずっと,相変わらずの他愛ない会話をした.外から売り子に一輪のバラを差し出されて,パリだなあと思った.会計の時に「これから俺の部屋に来るようにとは言わないから」と言って笑った彼は,最高に素敵だった.絶対に,忘れない.忘れたくないと,思った.

それからのホステルまでの帰り道は,おびえていた外国の街でもう20時を回っていたというのに全然怖くなかった.そしてそこで,翌朝TJVに乗るために5時に起きて歩いて東駅に向かうという無謀なその人に「どうか,ご無事で」と声をかけて,別れた.彼も,心配した顔をしているねと言って,同じようにわたしの平気を願ってくれた.

それだけ.

 

 

それから2ヶ月くらい,連絡先とか聞いておけばよなったなって,あるいはあのとき眠っていてもよかったなって,ずっと考えていた.テレビに出てくる,どんなにかわいくって裕福な女の子に生まれ変われるとしたって,もう一度自分の人生を生きたいなとか思っていた.

もう2年も前の話で,わたしはまだはたちで,ただいまだに幻みたいな記憶だけが残っている.わたしはもう処女でもないし,今の恋人のことがとても好きだけれども,彼がちゃんと東駅からバルセロナへ,そしてこの国に帰れたのか,それだけはまだ気になっている.

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