忘れたくないこと

わたしの思い出

月食の夜

玄関のドアを開けたら、満月だった。この角度。わたしは思い出す。

あなたはその夜、階段の踊り場で煙草を吸っていた。地球の影で、月の明かりがぼんやりとした暗がりの中にその火は赤く、ゆらゆらしていた。

どこかへ行くのに階段を降りるあなたに、わたしは話しかけた。
「見て」と。
月食が進む様子。


あなたはこの街を出た。
わたしは、何も変わっていない。
あなたがいなくなって、2回目の春が来る。

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